おまけ・・・(by Crane)

「お前が居ると、客が逃げていく気がするんだが・・・」
そんなことを、それとなくそれとなくイカ焼きの屋台に居たジンに言われ、アガットは場所を変えるべく海辺を散策していた。
渚の方からは、遊びに出た女性陣の歓声が聞こえる・・・が、もちろん知ったことではない。
飲んでいたジュースは、気がつけば空になっていた。
この夏の日差しの中、飲み物なしで歩き回るのはおろかな事である。
というわけで、アガットは、飲み物を売っている屋台の方に足を向けた。
「へい、らっしゃ・・・・い・・・」」
彼を見た店主が、思い切りおびえた表情をする。
他に居た客も、すすー・・・っと遠ざかっていく。
・・・人を何だとおもってんだ・・・???
昔、レイヴンの頭をやっていた頃にはよくそういう扱いを受けたものだ。こんなことは慣れている、慣れている・・・が。
あれから足を洗ってもう結構な年数である。なぜ今になってこんな目で見られなくてはならないのだろうか。
「な、なんになさいますか?」
丁重な店主の態度が・・・不気味にも思えたので、アガットはさっさと用件を済まして移動することにした。
「冷えたビー・・・」

「アガットさーん!」
注文しかけたところで、後ろから聞き覚えのある声が彼を呼んだ。
ちら、とサングラスのはしから覗くと、白い水着の少女がこちらに手を振っている。
「・・・あの、ビールでよろしいでしょうか?」
店主がおずおずと聞くのを、アガットは手を振って取り消した。
「いや、冷えたジュースを二つ。味は適当でいい。」
「わ、わかりました!」
電光石火の早業で氷水に手を突っ込んで缶を二つ取ると、店主はそれを押し付けた。
代金を払って店を後にすると、後ろから思い切り安堵のため息が聞こえてきた。不思議だ。
と、白い水着の少女・・・ティータが、砂浜を蹴って、浮き輪とシュノーケル装備で駆けてきた。
無言で片方のジュースをこつん、とティータの額に当てる。
「ひゃ、冷たい・・・えーっと・・・?」
「飲んでいいぞ。」
「わ、ありがとうございます。」
ティータは、満面の笑顔で、嬉しそうに渡された缶を開けてジュースを飲み始めた。
自分の分も開けて、口をつけた・・・ところで、周りの空気に気付く。
なぜだろう、周りから思い切り見られている気がする。妙に視線が突き刺さる。
別にやましい事などどこにもないが、どう考えても、好意的な空気ではなかった。
周りを見回してみると、すーっと皆視線をそらし・・・また遠巻きに見ている。
そんな中に、・・・自分はともかく、ティータを置いておくのはなんとなく気がひけた。
「・・・移動するぞ。」
「ふぇ?・・・あ、いいですけど・・・」
了承の言葉と共に、アガットはすたすたと歩き出した。
ティータはその後をついてくる。
そして、まわりの目線はまだ追ってくる。一体どういうことなのか。

少し離れた磯の岩陰まできて、アガットはようやく息をついた。
「ここ、涼しいですね。」
「そうだな。」
それに、もう視線も追ってこない。というより、なんだったのだろうか・・・・あれは。
考えをめぐらせつつも、ぼんやりとジュースを口にする。
ティータのほうも、黙々とジュースを飲んでいるようだった。
のんびり、静かな時間が流れるはずだった。

が。

「覚悟しなさい、悪党!」

静寂はあっという間に砕け散った。
「は?」
声のするほうを見ると、水着姿の女達が3人・・・・手に手に獲物をもっている。
一人は棒、一人は鞭、一人はレイピア・・・間違いなく知り合いである。
「あれ?エステルおねえちゃんたち、どうしたの?」
ビックリした顔でティータが棒をもった女・・・エステルを見上げる。
それを見て、エステルが目を点にした。
他の二人は、なんともいえない表情でこちらを見ている。
「あれ?・・・ティータが誘拐されたって聞いたから飛んできたんだけど・・・」
「ふぇ?わたし、アガットさんとジュース飲んでただけだよ?」
その言葉に、エステルの顔が引きつった。
「・・・・・・え。ってことは、そっちの人相悪いのは・・・」
「人相悪くて悪かったな。」
憮然として言い返すと、鞭を持った女・・・シェラザードがくすくすと笑った。
「まあ、これじゃあ・・・、そのあたりの不良と勘違いされてもおかしくないわねぇ。
 見事なまでの悪人面よ。」
「あの・・・せめてサングラスは取った方がいいんじゃないかと思うんですけど・・・。」
レイピアを鞘に収めながら、クローゼも言う。
エステルも、棒を収めてため息をついた。
「ほんっと、まぎらわしいんだから。」
「間違う方が悪い。」
「海岸に居たほとんどの人が誤解してたみたいよ?」
シェラザードにまで言われては勝てない。
「・・・・・・・・。わーったよ。」
サングラスを取ると、明るい景色が目を射した。思わず目を細める。
「・・・そっちのほうが、まだしもマシね。」
「まあ、誘拐犯よりはマシかしらね。」
「・・・・・そっちのほうが・・・誤解されなくて済むと思います・・・。」
「アガットさん、そっちの方が似合ってますよ。」
口々に言われる。全く持って勝手な事ばかりだ。
まぶしい光に辟易しつつ、アガットは深く深くため息をついたのだった。



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