INDEX(非常口)

ハーメルにて

リベール王国北方ラヴェンヌ村。ゆったりとした時を刻む場所。
 身を切る辛さも、ささやかな収穫の喜びも、僅かな変化とともに包んでゆく。

 今は誰も通ることはないと伝えられた山間の獣道を、温もりを取り戻しつつあるその日、二人 は歩き出す。
 北に300アージュ。地図上よりもグネグネと迂回するその道は、距離を倍以上にも感じさせ、 容易ならざる歴史の有様をさえ思い起こさせた。
 帝国領、厳密に言えば不法入国に相当する道程を、迷わぬように、時に立ち止まり、時に歩を 進ませる。

 「さびしー感じがしますね。」
 「・・・あぁ、もう何年も誰も通ってねぇしな。」
 過去に道らしきものがあったと思しき場所に差し掛かり、ようやく、人心地付く。
 遠くを見据えるアガット。忘れていた過去を掘り出すように。
 山間の、ほんの僅か開けた地、山々のかげにひっそり佇むように。
 ・・・その廃村は、あった。


 「・・・・・・」
 陵辱の傷跡は癒されることもなく、放置された焼け跡と人の背を超える雑草。
 遺された、家の土台であったであろう焼けた木が、人の営みの痕跡を示していた。

 何が起こったのか、その出来事を、知らされてはいた。
 晴天の大地に零れ落ちる、大粒の雨。


 右手で強引にティータの肩を抱き寄せ、更に膝の裏に左手を通す。
 地面から引き離し、胸の中に強く、強く抱きしめる。

 「今のうちに、思い切り泣いとけや。」
 泣きっ面で挨拶なんてできねぇだろ、と。
 「代わりに歩いてやる。だから、全力で泣いとけ。」

 ひと気の無い山々に木霊する、声にならない叫び。

 「・・・ひっ、ぅくっ、ぁ、ァガットさん、・・・あの、なにか、・・・話して、くれません か・・・。」
 村はずれにあるであろう目的地に、必要以上に時間を掛けた足取りを止め、言葉を紡ぐ。


 「・・・っても、俺も詳しくは、覚えちゃいねぇんだ。」
 柔らかな重低音。芯に響くその声が、好きだった。

 「どっちも似たような田舎でな、はっ、楽しみっていやぁ、収穫ン時の祭りと・・・。」
 ふと、途切れる。夢を思い出すように時間を掛け。
 「たまーに、こーやって、行き来してたんだ。他にすることもねぇしな。で、歓迎だ、何だっ て、」
 理由が欲しかったんだろうな、と。

 「もしかしたら、あん中に居たかもな。」
 同じ顔を思い浮かべる。

 「っても、たいしたモンもとれねぇトコだし。ろくなモンもなかったんだが・・・。」
 それきり押し黙るアガットを。労わる様に、あやす様に。
 包む腕に柔らかい力を、想いを込める。



 「・・・そうだった。ガキ向けの甘い菓子が出てきてな。まぁ、なんだったんだろな。」
 「うめぇ、うめぇって喰った覚えがあるぜ。はは、ほんとずっと、忘れてたみてぇだな。」
 「アガットさん、私、今度お料理作ります。とっておきなんです。美味しいの作りますから。」
 「・・・おぅ、楽しみにしとくぜ。」


  言葉を区切り、奥まった場所へ。一面開けた、峰に囲まれた大地を見渡すように。
 その、墓石を示す大岩は、置かれていた。


 並ぶ場から一歩進み、一抱えの花束。
 「初めまして、ティータ・ラッセルです。ヨシュアお兄ちゃんとエステルお姉ちゃんの、妹で す。」
 「ですから、これからはカリンさんのこともお姉さんって呼びますね。それとレーヴェさんも。 」
 「その、・・・色々なことがあったってききました。幼い私にはまだまだアレですけど・・・。 」
 「家族として、これから、宜しくお願いします。」

 思いの丈を言うだけ言い切り、アガットのもとへ。入れ替わるように。

 「久しぶり、か。」
 一本の瓶を墓前に。
 「あんたが飲むかどうか知ったこっちゃねぇが。」
 「アンタの言葉と剣は、キチンと受け止めとくぜ。俺なりに、な。」  「それだけは、感謝してる。・・・だから、もし、くたばったら、一杯付き合えよ。剣帝さん よ。」
 「あー、それと、カリンさんっつったか?あったこともねぇのに、いや、あんのかもしれねぇ が。」
 ワリィな、彼氏の悪口言っちまって、って。
 「知ってるかもしれねぇが。 挨拶に来たんだろ? ヨシュアは、まっすぐに生きてるぜ。」
 「・・・へ、部外者が、口を挟むことでもねぇか。」
 「じゃぁな、二人っきりのトコ邪魔して悪かったな。」

 「忘れないように、皆忘れないように、また来ますから。」
 一言残し、その場を後にしていく。




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      ふー、・・・アブナかったわね。
      ・・・エステルが忘れ物なんてするから。
      うー、ヨシュアだって気付かなかったクセに。
      ・・・なんで、エステルの荷物まで僕が気付かなきゃならないのさ。
      そ、ソコは、ほら、あの、コイビト同士の、
      あの、意思疎通というか、阿吽の呼吸というか。
      ・・・何言ってるのか、わからないよ。
      「 ! な、だって、・・・ムググ。」
      しっ、気付かれるよ。ティータはともかく、アガットさんに知れたら・・・。
      ・・・はー、怒り出すわよね。
      ・・・悪気は無かったんだけどね。あんなトコ見てしまったらどんな言い訳も・・・ 。



JJJさんより、同盟参加のときに頂いてしまいましたと言いますか、一緒に書かれていたので強奪してまいりました。
ティータがかわいくて、最後のアガットさんの台詞にどっきりです。4年後だと、ティータもしっかり乙女なんですよね。
JJJさんどうもありがとうございました。
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