INDEX(非常口)

トマトサンド

機械人形も無事片付き、リシャール大佐のクーデターも片付いた。
それは、リベールに平和が戻った日のお話。


彼は、らしくもなく疲れていた。
地下での機械人形との激闘が終わって、どうにか地上に戻ってきて、色々と報告を片付けて。
やっと部屋に入ったら、信じられないくらい気が抜けてしまうほどに。
よく考えなくても、ここのところ仕事続きだったのだ。
・・・あのひげ親父の依頼がここまでデカくなるとはな・・・
ケチの付き始めは間違いなく押し付けられたあの依頼。
でも、そのお陰で色々と得たものもある。多分。
遊撃士たるもの、常に・・・というのは良くわかっていた。
しかし、終わった事を色々考えるほどの気力は、部屋に入った段階で抜けていた。
バンダナと上着をサイドテーブルに放り、重剣を傍らに置いて、ほっと一息。
アガットはそのままベッドに倒れこんでしまったのだった。


その日の夕刻。
ティータは、とある部屋の前に立っていた。
「アガットさーん。」
部屋の主はアガット。ティータは、夕食を一緒に食べようと誘いに来たのである。
とんとん。
・・・・・・。
返事がない。
・・・おかしいなぁ・・・?
   留守?だけど、もう戻ってるはずなんだけどなあ・・・。
ためしにノブを回してみる。
・・・と、ドアは拍子抜けするくらいあっさりと開いた。
普段、大雑把に見えて用心深い彼なのだが・・・不思議な事もあるものである。
「アガットさーん?入りますよー。」
再度呼びかけて、ティータは部屋へ入る。
一歩入って、ふとあたりを見回して。
「・・・あっ・・・・。」
探し人はあっさりと見つかった。
部屋の真ん中、ベッドの上。
ティータの倍はあろうかという長身を横たえて、平和に眠りこけていたのだ。


初めて見た・・・全く警戒のないアガットの姿。
いつも着けているバンダナはサイドテーブルの上。上着も無造作に放って。
ドアに背を向けて、ティータが入ってきているのにも全く気づかずに眠っている。
「あぅ・・・どうしよう・・・。」
夕食に誘う・・・つもりだったのだが。
一応ドアを閉めて、窓側に行ってみる。
しかし、間近に近づいても、寝息がかすかに聞こえるだけ。
全然起きる気配はない。
ここまで気持ちよく眠られると、起こすわけにも行かなかった。
それに。
「そういえば、疲れてて当たり前でしたっけ・・・。」
機械人形との激闘を繰り広げたのは、少なくとも24時間以内だったはずである。
それに、機械人形以前にも・・・
要塞への侵入からこっち、逃走と・・・多分、自分達の保護も。
誰よりも気を張って、誰よりも疲れていたはずなのだ。肉体的にも精神的にも。
・・・ごめんなさい、アガットさん。
   だけど、ありがとうございます。
心のうちでそっと囁く。・・・起こさないように。
「・・・・あ。」
ふと、窓の風がカーテンとティータの髪をゆらした。
『疲れてるときは身体を冷やしちゃダメよ』
風と一緒に過ぎった・・・ミリアム先生から聞いた健康の基礎知識。
それに、考えなくても夕刻の風はやっぱり少し涼しすぎる。
ティータはぱたぱたと窓辺に駆け寄ると、そっと窓を閉めた。
・・・そういえば。
振り返ってアガットのほうを見る。
熟睡しているのは相変わらずだが、・・・案の定布団はベッドの端に寄せられていた。
・・・やっぱり。
「疲れてるんですから、・・・ちゃんと温まらないと風邪引いちゃいますよ?」
言いながら、そっと・・・そーっと布団をアガットにかける。
「・・・ん・・・」
ふとした声に、起こしてしまったかと、自然に身が硬くなる。
・・・が、彼はそのまま布団の中で落ち着いてしまった。
「・・・ほんっとうに疲れてたんですね・・・。」
ほっと一息。
しかし・・・はてさて、どうしたものだろう。
起こすのは問題外。
とはいえ、夕食を一緒に食べたいというのはまだ残っていた。
・・・ちょっと待とうかな・・・。
上着とバンダナを綺麗に畳んでから、ちょんとベッドに腰掛ける。
がっしりとしたアガットには・・・失礼かもしれないが似合わないくらい安らかな寝顔。
見ていると、なんだか自分まで眠くなってきてしまう。
「・・・・ん・・・。」
ぱたり。
いつの間にか、ティータはベッドの上で睡魔に身を任せていたのだった。


****


腕に・・・なにか動物の毛のようなものが当たる感触。
・・・・?
それは、なんだかたまに動いたりしているらしい。
・・・・・なんだ・・・??
夢うつつの、ぼんやりとした意識。
そして、目を開けた先・・・ぼやけた視界に映っていたのは、視界一杯の太陽の金色。
それがかすかに動いている。
・・・!?
一瞬で意識が覚醒した。
目の前にあった金髪は、どうやら人間・・・というより、ティータらしい。
聞こえてくるのは、規則正しい寝息。
見えているのは、長い髪が顔に少し掛かった・・・天使のような寝顔。
そして、自分の腕がティータを抱くようにかぶさっている事に気づいて、慌てて手を退ける。
「何でこんな所で寝てるんだ・・・?」
一瞬何かが頭を過ぎった、が。
・・・ありえねぇ。
思い直して息をつく。
ついでにそーっと・・・ティータを起こさないように・・・身を起こした。
見回すと、ティータの帽子が自分の脇に転がっている。
「おい。お前一体何しに来たんだ?」
返事は返ってこない。・・・見たとおり、熟睡しているのだろう。
「まったく・・・のんきに寝こけやがって。」
ため息一つ。帽子をサイドテーブルに置いて、ぺち、と起きない金髪をつつく。
「・・・・んー・・。」
と、ティータがこちらに転がってきた。
・・・げ、起こしたか?
しかし、こちらの心配はどこ吹く風で、ティータは相変わらず熟睡している。
ため息一つ。
・・・用事はともかく・・・こいつも疲れてるはずだしな。
起こすのはさすがに忍びなかった。
この小さな身体で、祖父の救出から軍部への進入と逃走、挙句の果てに地下遺跡で機械人形との死闘。
気が休まる暇もなかったに違いない。
「・・・お前も頑張ったよな。」
自分に掛かっていた布団を掛けると、ティータはまた何か呟いて、ころりと丸くなった。


さて、どうしたものだろう。
ティータが何をしに来たかがまず謎なのだが、・・・起こしてしまうのも忍びない。
かといって、ここから出て行くのはもっとできない事である。
鍵をかけて閉じ込めるのも困ったものだし、逆に開け放しで行くのはもっと恐ろしい事。
・・・・しかたねぇな・・・。
結局、自分としては、ティータが起きるのを待つくらいしかできないらしい。
また、息を一つ。
ぼんやりしているのも何である。
手ごろな布を取ると、アガットはベッドに腰掛けて武器を取った。
全体傷だらけはいつもの事だが、鉄くずが挟まっていたり、螺子やら止め具やらに大分ガタがきていたり。
あの機械人形を斬りまくったおかげで、刃も何気にこぼれていて。
折角の武器だが、・・・・これは修理に出すしかなさそうではあった。
・・・ま、手入れくらいはしてからがいいか。
暇つぶしにはこれが一番。
地下遺跡での相棒は、アガットの膝の上で鈍い光を放っている。
ところが。
「・・・・ん・・・アガットさん・・・」
ぼやけた声が後ろから聞こえてきた。
「!・・・起きたのか?」
振り返ると、ティータはほんわりと・・・目を開けたような開けないような状態でこちらを向いている。
「・・・おい、ティータ?」
「・・・・・・くー・・・・。」
声を掛けた傍からティータは、・・・今度は完全に目を閉じて寝入ってしまった。
「・・・寝言か・・・まったく驚かせやがって。」
起きてこなかったことは、安心したようながっかりしたような気分を味わわせてくれるものである。
また、ため息一つついて、先ほどと同じように、重剣に向き直った。
しかし・・・腰の方に何か違和感がある。
・・・・?
ひょい、と振り向くと、ティータの小さな手が、アガットのベルトを掴んでいた。
「お前な・・・・。こら、離せ。」
少しベルトを引っ張ってみたが、かなり強く握っているらしく、離れる気配はない。
・・・ここから動くなってことか・・・?
動くな、というより、動けない、が正しいのだが・・・。
重剣を膝に抱えたまま、アガットはがっくりと肩を落としたのだった。




前編:Crane担当分。後半(和 龍之輔様担当)へつづきます。
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